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ワーランド戦記

帝国軍に捕まった俺

 俺の名はヤマムー。しがない傭兵だ。
 この国に来て右も左も分からないうちに傭兵狩りにあっちまった。
 さっきまで帝国軍の衛兵に両脇を固められて,帝国将校の尋問を受けていた。
 話は簡単だ。帝国軍に入るか,ダイナスティ連合軍に参入するかの二者択一。

 考える時間はそんなにはない。
 営倉にぶち込まれた俺は,そこでダイナスティ連合の義勇兵と知り合いになった。そいつの言うには,まもなく連合の救出作戦があるとかで,もし連合軍に加わる気であれば,一緒に逃げ出さなければならない。

 営倉の外が騒がしい。連合の手配師だ。
 次の瞬間には俺達の上に,がれきが落ちてきた。少々荒っぽいが手際はいいようだ。営倉は穴だらけになっており,連合に入るつもりだった連中は,すぐに板材やらを押しのけて,脱出を始めていた。
 つかの間の同居人の一人は俺を促した。

「行くんだろう!? 行こうぜ!」

 壁に大穴に足をかけた俺の脳裏に,さっきの将校の顔が思い浮かんだ。
 私情を挟まない職業軍人だ。任務遂行のための最善であれば,いかなる手段も問わない,徹底した帝国軍人だ。妙なイデオロギーもなく,俺たち傭兵を,使い捨ての兵士として高給で雇ってくれる。

 俺はこの大地が弱肉強食であることを知っている。
 人間は,男も女の戦士として生まれ,戦い続けることこそ人生だと理解している。
 そして,俺は自分のスキルに自信を持っている。俺は強い。歳こそ若いが,経験だけは積んでいる。
 だからこの過酷な世界で生き残る権利があるはずだ。

 俺のこの能力を最大限に生かせる場所はどこだ? 俺に高みを用意し,ふさわしい危険と,報酬を用意しているのは,この帝国をのぞいて,他にあるまい!

「悪いな,俺とあんたは,明日から敵同士だ」

 友の背中を軽く押しだし,俺は背中を向けた。周りあるのは,くすぶった廃材と,土埃。
 居残ったのは,俺だけだった。



 俺に帝国軍入りを勧めた将校は,この脱走劇に少々参っているようだった。
 こんなことは1度や2度ではなかったようだが,「またやられたか!」と思わず叫んだのを俺は聞き逃さなかった。この将校は,きっと俺を必要としている。

「そこの! どこから来た? 名前は?」

 名前はヤマムー。向こうの世界でも傭兵をしていた。
 この世界のような旧式の兵器は使ったことはないし,英語が母国語だったわけではない。
 そして,なぜこんな世界に紛れ込んだのか,どうしたら帰れるのかなんて……まったく思いつきもしなかったし,信じてくれるとも思ってはいなかった。だから,俺も少々参っていたんだ。

「報酬ははずむ。傭兵になれ」

 将校はほとんど応える術のない俺を察してか,詮索することはなかった。
 俺の先日までいた職場では,こんな不審者はたいていスパイ容疑で拷問を受けていたが,この将校はハナが効くようだ。一瞬で俺を見抜き,信用した。

「インペリウム帝国とダイナスティ連合の間には,『死の荒野』と呼ばれる不毛の地がある。いままでは,どちらの土地でもなかったが,きゃつらは我が国が資源採掘場を狙っていると言いがかりをつけた。軍隊を置いた。我が国の皇帝陛下は,誤解を解くために何度も使者を送ったが,全ての和解案は,ことごとく拒否された」
「それで」
「戦争だ。いいがかりをつけられて,国境近くに軍隊を常駐されて,我が帝国が黙っているわけにはいかぬ。帝国は正義のための戦いであれば,いかなる犠牲を問わない」
「俺は傭兵だ。どちらに正義があろうと,関係はない。戦争にそんな妄想を追い求めているほど,幼く見えるかい?」
「結構だ。特に試験は行わず,すぐにでも装備を整えさせよう。

 俺には武器と訓練教程が渡された。
 オンボロのトラックに乗せられて前線に向かう。荒野を走る,廃車寸前の兵員輸送車の乗り心地は最低だったが,それでも,この国では貴重な自動車であることを,俺はあとで知った。



 前線基地では,信じられないことを聞かされた。
 戦闘に出れば食料が与えられる。働かざる者は食うべからずだ。
 未熟な者は,戦闘に参加せず,訓練でもしていればいいらしい。それは各自の自由だ。
 これを軍隊と言っていいのか? 俺は戦国時代の足軽にでもなっているのか?

 やれやれ前途は多難だな。
 せいぜい活躍して,昇り詰めてやる。
 てっぺんからなら,見える者も見えてくるはずだ。そのうち,俺のいた世界へも戻れるに違いない。

 ふてぶてしくも俺は,その日の夜は熟睡してしまったんだ。
 ここが戦場だというのも忘れてな。

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